10年くらい前、まだ社内整備などがしっかりできていなかった頃、社外の労働組合団体(以下ユニオン)に乗り込まれたことがある。大変な言いがかりだったので毅然として追い返したが、もつれにもつれ団体交渉、労働裁判となった。(ちなみに日本ではなぜか社員ではない外部の労働組合が組合活動をできてしまうのだ)
結局、労働裁判でなぜか裁判官が労働者側を叱責してくれて解決を見た。弁護士に「労働裁判では基本的に裁判官は労働者側に立つのでこんなこと珍しいですよ。私も弁護士人生長いですが、こんなこと初めてです」と言われた。裁判官にも良識ある人がいるのだなと不思議な感動を覚えたのを記憶している。
さて、何でそんな話をしたかというと、団体交渉のある日、私が「顧客であるケアマネに~」という話をした時、ユニオンの代表が「ほう。ケアマネが顧客ですか。面白い説だ。顧客は利用者でしょう。何を言ってるんですか?」というやり取りがあったのを思い出したのだ。「なるほど。はて、何を言っておるのでしょうな、私は。」とか相手を煙に巻きながら、「ドラッカーも知らないこのアホが」と心の中で罵倒したのを覚えている(笑)
さて、本題である。確かに、介護と言えば顧客は要介護の利用者。それが普通である。
しかし、ドラッカーが言っているように顧客を定義するというのはそんな簡単なことではないのだ。もちろん、顧客を利用者と定義しても構わない。(ちなみに、私はさほどドラッカーの信奉者というわけでもないです。話が長いし。回りくどいし。で、眠くなるし。飲み会でドラッカーが隣にいたら「あ、僕トイレ~」とか言って絶対席移っちゃうし。。とか言ったら偉い人に怒られるか)
だが、事業戦略とは他社との違いを作ることである。何も考えずにみんなと一緒の顧客を定義してしまったら最後、その他大勢の会社に飲み込まれてしまうのだ。
だから、もちろん私たち経営者が顧客を定義する場合も差別化しなければならない。
例えば、デイサービスを例にとっても、利用者、ケアマネ、利用者家族とすぐに挙げられるだけでも三者がいる。
購買受益者である利用者、購買行為者であるケアマネと家族、そして購買決定者である家族である。
そんなの全員を顧客にすればいい。三者とも大事にすればいいと思うだろうか?
しかし、そうしてしまうと例えば家族はデイサービスに行って欲しいのに本人は行きたくないという場面のときに、たちまち右往左往してしまうのだ。顧客が定義されていないので、会社の方針が決められないからだ。
そうなると、現場は混乱し、会社に愛想をつかし、顧客からもそっぽを向かれる。
だから、顧客を定義しなければいけない。
そして、顧客を決めたら顧客以外の人には嫌われてもいいと思わなければならない。顧客を定義し、顧客を絞ってその顧客を大事にするということは、裏を返せば顧客以外の人には嫌われろということなのである。
例えば、「私たちの会社は女性支援企業です」と言う会社があるとする。この会社は男性の顧客には嫌われてもいいと思わなければならない。
あるいは私たちの企業は「働く女性をサポートする企業」という会社があったとする。この会社は専業主婦世帯の人には嫌われる覚悟がなければならない。
顧客を大事にするとは、それ以外の人には嫌われるリスクをとってでも顧客を優先するということなのだ。
さて、ではどうすれば顧客を定義する上で差別化できるだろうか。
例えば逆張りという言葉がある。普通とは逆の定義をするのである。具体的には、求人業界での顧客は企業であり、企業に広告費を払ってもらい求人広告を掲載する。一方で学生を顧客と定義し「就職塾」を作ったらそれは逆張りになるだろう。企業ではなく学生からお金をもらうのである。
あるいは、顧客の対象範囲を限定する定義の仕方もある。例えば、数年前に話題になった(今もか)大塚家具。
この会社は顧客を「一定の富裕層」に絞っていた。高級路線の会社だったのだ。だから、大衆層を相手にしていたニトリやイケヤと差別化できていたのだ。娘はカジュアル化を目指し、お父さんは高級路線の継続を主張したわけだが、教科書通りの話で言えば、差別化という意味ではお父さんが正しいということになる。
もちろん、顧客のニーズに合っていればの話である。時代が変わり、顧客のニーズに合わないことをやるのは差別化ではない。
セオリーで言えば、高級路線での差別化は継続し、現代の富裕層の要望を満たすための商売のやり方を考えるべきであり、変えるべきは顧客の定義ではなかったということになるだろうか。
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