今日のテーマは人件費率である。今回は正確に労働分配率という言葉を使おう。さて、介護の適正労働分配率は何%か?
これについては、業態によって前後するもの一般的には45%と言われる。少し高いと思うかもしれないが、仕入れがないためこの基準は決して高くない。
そして、この水準を守れば確実に利益を出すことが可能である。ただ、ここに社長の悩みがある。売上にもよるが大体の場合、シフトを組んでもこの数字に収まらないのである。
それは売上が足りないからである。逆に稼働率も高く売上が確保できている会社の事業所では45%に収まる。
だが、対策として「売上を上げてください。そうすれば、労働分配率も適正になりますよ。」というのでは何の対策にもならない。
ほとんどの会社は必要な売上が足りないときに、労働分配率が収まらないから利益が出ずに頭を悩ますのである。
さて、どうするか?というとまず損益分岐点売上を超えるまでは仕方がない。そこまでは売上を上げるしかない。では超えた後はというと、原則として45%は堅持する。
ただし、そうなるとどんなに工夫しても現場が回らない場面が出てくる。それを放置すると現場が疲弊する。そこで、どうしても回らない場合、どのタイミングでいくらの人件費予算を追加すればいいか現場に出してもらい、それをたたき台に議論した上で、そこに限定して毎月予算をつけることにしている。それも議論して出た数字より気持ち多めにつける(多めにというところがポイントだがそこはまた今度)
つまり、毎月必要最小限のヘルプ人員を出すわけである。そしてそのヘルプ人員はそれ以外の時間は例えば営業活動にあてる。
重要なのは人が足りないからと言って、一人人員を足すことである。それをやってしまうと2つのデメリットがある。
1つ目は一人一人の仕事量がそれに慣れてしまい、たとえ売上が増えても結局必要な人員が増えることになり、いつまでも適正な労働分配率に収まらないということである。そうなると、現場の創意工夫による効率化という概念がなくなることになる。だからこそ、毎月効率化をしてもらい、それで足りない予算を毎月決裁するという形をどうしてもとる必要がある。
2つ目は一人人員を足して、余った時間に営業をやってくださいとやると結局、常にヘルプ人員は現場を手伝う羽目になり、営業などできなくなる。そのためにはあくまでも営業担当者が時間限定で営業部からヘルプに行くという形をとる必要があるのである。そうしないとお互いに甘えが出る。そいういうものなのである。
以上がテクニックの話である。
だが、上記以上に最も重要なことがある。それは、社長が「何のために適正な労働分配率を達成する必要があるのかについて、従業員一人一人と共有できているか?」である。
そして、もっと重要なことは共有以前に「どのようなスタンスで経営をやっていますか?」それはもっと具体的に言うと、「あなたはこの事業を通じて、どのように従業員の幸福に貢献したいですか?」ということである。
例えば、事業を拡大したい。自分の役員報酬を上げたい。そのために利益を出したいから人件費を抑えたいと思っている社長はいないだろうか?
そうだとしたら、今すぐ会社を畳んだほうがいい。
これに対しては、「なぜ事業を拡大するのが悪い。」「利益を出すのが悪いのかと思われるかもしれない。」
だが、問題なのは利益を出すことではない。利益を出す手段として社員の人件費を抑えようとする社長の考え方なのだ。
そして、社長が何を考えて経営しているかなど従業員はお見通しなのである。社長の私益のために頑張って利益を出そう。労働分配率を管理しよう、会社に協力しようという人などいないのである。
その社長のスタンスを変えずに、いかに「会社を成長させるために人件費管理を徹底しよう」などと言ったところで、ただのお題目にしかならない。根本的なところで間違っているからである。
そのような社長はまずは自分の経営理念を見直すところから始めなければならない。その上でそれでもこの事業をやりたいか、それを問うところから始める必要がある。
なお、最後に45%に労働分配率を抑えるために「社員をリストラしたり、パートさんのシフトを削ったりしていいか」という質問をよくいただくが、ダメに決まっている。そんなことをしたら終わりである。労働分配率の管理とはそういうことではない。
これは、長くなるので次回詳しく述べたい。(次回に続く)