介護事業における人件費問題。人件費率(労働分配率)は何%が適正か?(2)

前回、45%に労働分配率を抑えるために社員をリストラしたり、パートさんのシフトを削ったりしたら絶対にダメだという話をした。

それについて、今日は書きたい。

介護事業に限らず、サービス業はシフト管理が重要で、パートさんやアルバイトのシフトを削って人件費をコントロールするのが一般的である。

しかし、本当に儲かるお店を作りたいなら、そんなことはすべきではない。非正規雇用の人にだって生活があり、それを非正規だからという理由でいくらでも削っていいというものではない。

それにもっと実利的な理由がある。都合の良い調整弁として非正規の人にドラスティックなやり方をしていると必要な時にシフトに入ってもらえなくなる。結局稼ぎ時にシフトを組めなくなる。

だが、それ以上にもっと悪いことがある。それは社員が辞めるのである。なぜか?まず非正規の人に冷たい会社は必要なときに必要なシフトが組めない。そのしわ寄せは社員、特に店長にかかるのである。

そんな店長を見ている社員が店長になりたいと思うだろうか?思うはずがない。さっさと転職活動を始めるだろう。この人手不足の時代のサービス産業。いくらでも職はあるのである。

そして、何より致命的なことはアルバイトに冷たい会社は人心が離れるということである。店長は人間である。アルバイトも苦楽を共にしてきた仲間である。仲間につらい仕打ちをするような会社で頑張れるはずがない。また、いつかその仕打ちは自分に向かってくると思う。自分もいつか同じ目にあうと思う。それが人間なのである。

人の気持ちを理解し、それに寄り添うことが経営者の唯一の仕事だと言っても過言ではない。それ以外のたいていのことは権限委譲できる。

だが、「この社長の元で働きたい。」という従業員の気持ちの部分だけは権限委譲できないし、してはいけない部分である。

特に今はコロナだから人は多少採用しやすい。そこで調子に乗って人を便利に使って利益を出す。確かに短期的に見ればそれで利益が一時的に出るかもしれない。だが長期的には日本は人手不足なのだ。そのようなやり方は長期的視点での経営を放棄しているとしか見えない。

負担が店長にかかり続けた結果どうなるかはもうお分かりだろう。管理職の過労死や精神疾患、自殺等、ブラック企業と言われる会社の末路を見れば分かる。会社名は出さないが、大企業でも、というか大企業ほどそのようなニュースは山ほどある。現場が勝手にやったことで自分は知らなかったと社長は逃げる。

だが、そんなはずがない。すべては社長の責任である(これは社長である自分自身にも言っている)。現場が勝手にやって報告が上がらなかったと言うのであれば、それはそのような組織風土を作ってしまった社長の責任なのである。

郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも全て社長の責任である。これは故一倉定氏の言葉であるが、それが社長なのである。

さて、話が逸れたので戻すが、売上が下がり、45%に労働分配率が収まらないとする。ではどうするか?シフトも削らずに仕事もないのに人件費をたれ流せと言うのか?もちろんそうではない。

現場のオペレーションはあくまで45%で組むのである。そして、そこで出てしまう余剰分は、別の活動にあてるのである。

どのような活動にあてるかは、そのお店の現状の課題によるので何とも言えない。課題が何かを突き止めるのが経営者の仕事である。

まず、お店の組織風土が問題であるというのなら、私は環境整備をおすすめする。お客が来ない間に掃除をしてお店をピカピカにするのである。いらないものを捨てるのである(整理)。備品の置き場所を決めて管理するのである(整頓)。これをみんなでやっていると、心が澄んでくる。チームとしての一体感も出てくる。整理整頓が進むことにより、必要なものとそうでないもの、必要な仕事とそうでない仕事がクリアになり、業務の効率化が進む。そうすることで来るべき売上が戻ってきたときに備えるのである。

あるいは、サービスの質が悪いというのであれば、挨拶や電話の出方など基本をみっちりこの機会にやって既存の顧客満足を上げる。

では空いた時間に新規営業をするというのはどうだろうか?もちろん重要な課題ではあるし、これはケースバイケースだが、私は新規営業は上記を取り組んだ後にすべきだと思っている。

「まずは今のお客さん、既存客を大事にしよう」と私は自分の会社でも言っている。だって、売上が下がったというのは既存客が減ったからですから。既存客をまず大事にしなきゃ。そうでしょう?

まずはそこからである。だから、掃除をして既存客にとって気持ちの良い空間を作り、気持ちの良い挨拶を徹底して既存客のリピート率を高めるのである。

もう1つここで書いておくべきことがある。ここで書くべきか迷ったが、あえて書いておく。

上記のような活動を本気で社長が取り組んだならば、今いる人員の余剰問題などすぐに解決する。なぜなら、掃除をしたくない。挨拶などしたくない。といったスタッフが辞めていくからである。逆に言えば、そのような風土を許していたからこそ、売上が下がるのである。

なぜなら、そのような風土を放置するということは今来てくれているお客さんを大事にしていないことの証だからである。掃除もしない、挨拶もしない、そのようなお店に誰が来たいと思うだろうか。

掃除をしよう、挨拶をしよう。その当たり前のことを徹底するのである。凡事徹底である。そんな基礎的なことをやりたくないスタッフ等辞めてもらっていいのである。

ただ、このようなことを書くとそれを必ず悪用する経営者が出てくるので、迷ったがあえて書かせていただいた。例えば、辞めさせたい人だけにトイレ掃除だけを毎日やらせるとかね。そんなことしたら直ちに訴えらえれます。悪用禁止です。

人を辞めさせるためにやるのではない。売上が下がったことをチャンスと見て、経営改革をやるのである。それに従業員全員がついて来れるなら一人も辞めずに経営改革に一緒に取り組んでもらうほうがいいに決まっている。

なぜなら、全員が本気で経営改革に取り組む会社の業績は将来的に必ず伸びるし、売上が上がった時は結局のところ人がいなければ事業ができない。

結局のところ事業は人なりなのだから、経営改革に共感してくれて全ての従業員が残ってくれた組織なわけだから、こんな強い会社はないのである。

だが、経営が上向資金繰りが苦しい、ない袖は振れないという声もいただく。私だって過去に脛に傷がないわけではない。悪魔の声だってささやく。

だが、だがそれは資金繰りという別のテーマの話である。この回とはテーマが違う。いくら資金繰りが苦しくても、リストラやシフト削減で人件費に手を付けてはいけない。

お金がなくても調達はできる。だが失った人心は調達できない。リストラに手をつけるのは最後の最後の最後である。

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