前回、次のような話をした。
1、社内においてクレームをどう定義しているのか
例えば、明文化されていないにせよ、クレームを次のように定義している会社も多いと思う。
それは、「クレームは出してはいけないもの。避けなければいけないもの。減らすべきもの。評価が下がる忌むべきもの」
このような感じだろうか。
少なくとも、クレームをどんどん出していいという会社はないであろう。
しかし、当社はクレームをこう定義しており、社員全員に配布している経営計画手帳にも次のように定義されている。
「クレームは当社の改善点を教えていただけるありがたいもの」「クレームはありがたいもの」「クレームを早く報告してくれた人は大歓迎。そのような人は査定が上がり、評価の対象」
そして、クレームの責任については次のように記載されている。
「クレームに対する社員の責任は一切追及しない」「クレームの結果についての全ての責任は社長ただ一人にある」
そして、
「社員は結果責任は負わず、クレームの報告責任のみを負う」
と明記している。
冗談じゃない。そう思われるだろうか。
だが、よく考えて欲しい。本当の意味でクレームの結果責任など社員が取れるものだろうか。例えばそれで損害が出たとして、その損害を社員に金銭的に補償させることなど可能だろうか。それは法的にも不可能である。
そうだとすれば、どうせ責任などとらせられないのだから「責任を取れ」ということなど無駄なのである。
もちろん、このことをしっかり分かっておられる社長さんもたくさんおられると思う。「責任は社長が負う」と。
しかし、思っているだけでは不十分なのである。伝えなければいけない。そして、伝えるだけでも不十分であり、明文化しなければならない。明文化して配らなけばいけない。配って、繰り返し繰り返し勉強や会議などでそれを説明しなければならい。
そこまでやってはじめて、クレームがタイムリーに報告される好ましい組織風土が醸成される。人気のデイサービスには特徴としてこのような組織風土が必ずあると言ってよい。
さて、言うまでもないが、クレームをきちんと報告できる人は実際に査定でも良く評価しなければならない。当社では査定項目の中に「クレームや悪い報告を早く報告する」というものがある。実際に評価項目に入れているのだ。
これにより、社長のもとに悪いことも含め、情報が入ってくるようになる。ケアマネの声が報告されるようになる。アンケートがしっかり回収できる会社ができあがるのである。
そうなれば、直接社長がケアマネのところに訪問したり、電話したりしても問題ない。社員は誰一人そこでなされるやり取りにおびえる必要はないからである。
この点、このような組織風土が出来上がれば社長が直接ケアマネを訪問したり電話する必要はないのではないかという疑問が沸き起こる。
悪い報告も含め、社員が何でも報告してくれるはずだからだ。
しかし、それは違う。
社員の報告とは経営の視点に立った報告ではない。ケアマネとのやり取りも経営の視点に立ったものではない。だから経営者は社員のフィルターを通さない生のやり取りで、顧客の微妙な要望の変化を見逃さないようにする必要があるのである。
では、なぜ顧客の要望の変化とはそれほどに重要なのであろうか。
それは、会社の業績が下がる原因とは、今会社が提供しているサービスと顧客のニーズがずれていくことが原因だからである。
どんな会社でも、お店でも、門開業当初は顧客ニーズに合致したサービスを提供してスタートする。そして最初はうまくいく。
しかし、社会環境は少しずつ変わっていく。それにより顧客が求める要望も少しずつ変わっていくのである。アンケートというのは、自社の現状と顧客の要望のズレを確認するための作業といっていい。
自社の商品と顧客の要望が少しずつずれていく。お客が少しずつ減っていく。リピート回数が減っていく。経営者は原因が分からない。
だから焦る。そして営業を強化するというピンと外れなことを行う。しかし成果は上がらない。当たり前である。売れない商品を売ることなど不可能だからだ。
そこで社員にはっぱをかける。社員はモチベーションが下がる。社員は知っている。なぜ売れないのかを。顧客の要望に商品がもう合っていないのだ。
でもその経営判断に関わる根幹的な疑問を社長にぶつけることはできない。やがて社員は辞めていくだろう。そうやって名門の会社でも市場から撤退を迫られていく。
かつての名門だった日本の家電メーカーがアップル、マイクロソフト、インテル等の米企業の下請け的地位に成り下がってしまったのも結局は顧客の要望と自社の商品のずれを確認する。ただこれだけのことを怠った結果なのだ。
そのためには常に自社がずれていないか、自社が顧客のニーズに合わない商品開発をしていないかと自らを疑う謙虚な姿勢が求められる。
人気のデイサービスの特徴として経営者のこのような姿勢も共通している。皆謙虚なのである。そして、私の傾聴もまだまだこのような社長さんには全く及ばない。だから勉強させてもらい、自社に取り入れていく作業を繰り返す。
そして、その姿勢こそ「傾聴経営」と呼ぶべきものだと思う。
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